活動的な犬に大切な3大栄養素は、タンパク質、脂肪、炭水化物です。近年は、タンパク質と脂肪に注目が集まり、炭水化物は後回しにされてきました。ここでは、炭水化物がどれほど重要な栄養素なのかについて紹介します。

 

炭水化物:知られざる栄養素のチャンピオン

炭水化物が軽視されている理由のひとつとして、炭水化物を摂らなくても活動できるということがありますが、なくても活動できるというだけで、大丈夫ということではありません。炭水化物は、すべてのパフォーマンス犬の食事に必ず含まれるべき栄養素です。炭水化物は、水素、酸素、炭素が結合した分子構造から成り立っており、これら3つの元素は、エネルギーをはじめとする身体すべての機能をサポートする栄養素として働きます。小麦、米、トウモロコシなどの穀物には、デンプン、ブドウ糖、食物繊維などの炭水化物が含まれています。デンプン、糖質が摂取されるとエネルギー源となります。もし、犬が必要とするよりも多くのブドウ糖が食事に含まれていた場合、余ったブドウ糖はグリコーゲンや脂肪に変換され、エネルギー源として蓄えられます。またグリコーゲンは、肝臓や筋肉の中に蓄えられて必要なときにすぐにエネルギー源として活用できるという働きがあります。

身体機能を支える栄養素

特定の活動のためだけでなく、すべての身体機能の働きを考慮した栄養バランスが重要であり、それが犬にとって完全な食事と言えます。ハンドラーが犬を走らせるとき、犬は主にエネルギー源として炭水化物を使います。活動の時間が長くなると、徐々にエネルギー源として脂質が使われはじめますが、脂質に完全に移行するわけではありません。また、神経系の働きには、主なエネルギー源としてブドウ糖が使用されますが、神経細胞が脂肪をエネルギーに使用することはないのです。したがって、筋肉の収縮などの働きは、脂肪の利用へ移行することができるのですが、筋肉の収縮の指示を出す神経と脳は脂肪を利用できないため、別のエネルギー源が必要となります。犬の集中力が低下する理由はさまざまですが、その要因のひとつとして、炭水化物の摂取量が足りない、または適切な栄養バランスの食事が摂れていないことが考えられます。

炭水化物と胃腸の健康

犬の食事に炭水化物を配合するもうひとつの理由は、健康な消化の働きを維持するためです。炭水化物には、エネルギー源となるデンプンや糖分だけでなく、食物繊維も含まれており、人間と同じように胃腸の健康を維持する重要な働きがあります。食物繊維は直接消化されることはありませんが、犬の消化管内に生息する腸内細菌の栄養となります。これらの腸内細菌は食物繊維から栄養素を生成し、犬の腸管を覆う細胞がそれを利用することで腸内細菌のバランスを整え、お腹の健康を維持し、便の質を適切に保ちます。

多くの広告で言われていることとは反対に、炭水化物もその栄養素の元となる穀物も悪いものではありません。実際、炭水化物は、犬種に関係なく、犬のエネルギー源として重要な役割を果たしています。ある栄養素が別の栄養素より重要であると優劣をつけがちですが、犬の食事には、最適なパフォーマンスを引き出すために、一部の役割だけでなく身体全体をサポートするすべての栄養素が、最適なレベルで含まれている必要があるのです。

 

著者:ラス・ケリー(理学修士) | ユーカヌバ™&ロイヤルカナン ペットヘルス&ニュートリションセンター